井上雄彦を語る③『スラムダンク』
みのくまと申します。
①では流川を、②では桜木を取り上げた。
③では「赤木剛憲」を取り上げたい。
ゴリラのような風貌と、問題児軍団をまとめ上げる実力者である。
赤木の目的は、流川よりも明確で「全国制覇」である。
ことあるごとに「全国制覇」を連呼し、その執念も半端ない。
まさに「目的」が明確化しているプレイヤーということで、井上の想う「理想のスポーツ選手」に近しいように感じる。
しかし、井上は物語の最終戦である山王工業戦で、赤木を徹底的に地獄に突き落とすのだ。
赤木は作中、本当に強い。彼のマッチアップする相手(主要なところとしては魚住、花形、高砂)にはことごとく勝つ。作者もいざとなったら赤木を怪我させることでゲームバランスを図るほどだ。
しかし、赤木は初めて自分より強い相手と戦うことになる。それが山王工業の河田である。結局試合には勝つが、それは赤木が勝ったことを意味しない。赤木は最後まで河田に勝つことなく試合を終えるのだ。(ちなみに前述したように流川は沢北と互角に渡り合う。)
そして、問題はこの後である。赤木は、ある大学からスポーツ推薦を受けていたにもかかわらず、それを辞退することになる。なぜか。
それは赤木の目的である「全国制覇」を諦めたためである。
赤木は山王戦、河田に勝とうと執念を見せる。しかし、完膚なきまでボロ負けをする。しかし、試合中にかつてのライバル魚住からある指摘をされる。刺身の引き立て役である大根を見せられながら「お前は鰈だ。泥にまみれろよ。」と。
赤木はここで初めて河田に負けを認める。(しかし「湘北は負けんぞ」とは思う。)
これが赤木のその後を決定したのだ。
「赤木が率いてきた湘北」が、「湘北のメンバーの一人である赤木」になった。これはもちろん悪いことなはずはない。しかし、おそらく赤木は中学から高校にチームが変わった時に持っていた「高校では全国制覇だ」という目的を、大学では持てなくなったのではないだろうか。それは「湘北の全国制覇」に目的がスライドしてしまっていたからだ。
つまり、桜木とは違う形で、赤木も目的が雲散霧消してしまったのだ。
結果的に、『スラムダンク』の主要登場人物で、目的を持ち続けたまま最終回を迎えたキャラクターは流川楓のみ。
よって、井上雄彦が想い描く「理想のスポーツ選手」とは流川のことだろうと思われる。
では、より具体的なその「理想のスポーツ選手」とはどんな選手のことなのかだが、井上の連載中の二作『バガボンド・リアル』の登場人物から読み解くことにしよう。